実家の相続で兄弟ともめない進め方と決める順番
実家の相続で兄弟の話が止まるのは、仲の良さより、決める順番のほうに原因があります。
分け方は現物、代償、換価、共有の四つ。ただし先に固定するのは相続人の範囲と遺産の全部、そして引き取る人が毎年背負う額です。期限は3か月、10か月、3年、10年の四段で、順番を外すと使える枠から閉じます。
この記事の目次
分け方を決める前に固定する三つ。相続人の範囲、遺言、遺産と負担の全部
相続人が複数いる時点で遺産は自動的にその共有になります(民法第898条)。分け方の話し合いはこの共有を解く作業で、相続人が一人でも欠けた協議は成立しません。
範囲は戸籍で確定します。子が相続開始以前に亡くなっていればその子が代襲し(第887条第2項)、子がいなければ直系尊属、次に兄弟姉妹の順で(第889条)、甥や姪まで当事者に入ることがあります(出典:e-Gov法令検索 民法・2026年7月30日確認)。
遺言があれば原則その内容が先に立ちますが、遺留分は残ります。持つのは兄弟姉妹以外の相続人(第1042条)、請求の形は金銭の支払いです(第1046条)。
三つ目が遺産と負担の全部です。相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(第896条)。土地建物と預貯金だけでなく、借入や保証、未払いの税や医療費も同じ側です。家財の分け方は遺産分割とは別で、先に配ると戻せません(形見分けの決まりとタイミング|親族で揉めない配り方)。墓と仏壇は遺産分割の対象ではなく、慣習に従って祖先の祭祀を主宰する人が承継し、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めます(第897条。移す手順は改葬許可申請の手順と必要書類|遺骨を移す前に)。
分け方は四つ。住む人がいるか、現金を出せるかで切れる
判定に効くのは、実家に住む人がいるか、家を取る側が現金を出せるか、家以外に釣り合う財産があるかの三点です。
| 分け方 | 成立する条件 | 要る現金 | あとに残る宿題 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 家以外の財産があり、金額の釣り合いが取れる | 不要 | 土地を分けるなら測量と分筆の費用。分けたあとの使い道 |
| 代償分割 | 家を取る人が代償金を用意できる | 必要 | 評価額をどの物差しで見るかの合意 |
| 換価分割 | 全員が売ることに合意でき、買い手が付く | 費用は代金から出せる | 売れるまでの時間と、譲渡所得の申告 |
| 共有 | 決めないまま登記だけ通せる | 不要 | 使用、管理、売却の全部が他の共有者との交渉に変わる |
代償金は税の計算に反映されます。現物を取得した人の課税価格は取得した財産の価額から交付した代償財産の価額を差し引いた額、受け取った人は相続財産の価額に受け取った代償財産の価額を加えた額です(出典:国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算・2026年7月30日確認)。
換価分割は、建物を残して売るか解体してから売るかで、使える税の枠と価格の両方が動きます(実家を処分する4つの出口|売る・貸す・解体・手放す)。
共有は決めないための箱ではない。選んだ日から動くルール
共有は摩擦が少なく見えますが、選んだ日から次のルールで動きます。
使う人がいる場合。共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対して自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います(民法第249条第2項)。無償で住み続けることを認めるなら、認める側がその合意を書面に残す立場になります。
動かす場合。売却や大きな変更には他の共有者の同意が必要で(第251条第1項)、管理に関する事項は持分の価格の過半数(第252条第1項)。過半数で設定できる賃借権の上限は建物3年、土地5年(同条第4項)。費用は持分に応じた負担で、1年以内に履行しない共有者がいれば、他の共有者は相当の償金を支払ってその持分を取得できます(第253条)。
連絡が取れない場合。所在等不明共有者の持分を取得する手続きはありますが、遺産分割をすべき相続財産では相続開始から10年を経過していないと使えません(第262条の2第3項)。協議が調わないときの最後は裁判による分割で、現物分割、他の共有者に持分を取得させる方法、それもできないときは競売です(第258条。出典:e-Gov法令検索 民法・2026年7月30日確認)。
次の相続で持分が甥や姪に移ると、同意を取る相手が増えます。
引き取る人が背負う年額を、代償金より先に紙に出す
家を取る人が背負うのは、その時点の評価額ではなく、毎年出ていく額と、それが続く年数です。
出口を順に当たっても手放せなかった土地で分かったこと
編集部の運営者は沖縄の傾斜地を相続しました。売却、寄付、国庫帰属と出口を一つずつ当たり、どれも成立せず、いまも保有しています。毎年出ていくのは固定資産税の年約7万円です。一年分だけ見れば困らない額で、だから判断を後ろに送れてしまいます。誰が引き取るかを決める場面でこの年額と年数が出ていないと、引き取った人だけがあとで割に合わないと感じることになります。
紙に出すのは五つです。固定資産税と都市計画税、火災保険、電気と水道の基本料、見に行く交通費、空き家のまま持つなら草刈りや通気の外注費。年額にして売れるまでの想定年数を掛けた額を、代償金と同じ表に並べます。解体すると土地の固定資産税の見え方が変わるため、予定があるなら前後で二通り出します。
もめる論点は三つに絞れる。評価額、介護、生前贈与
評価額。物差しが三つあります。固定資産税評価額、相続税の評価に使う路線価などの価額、不動産会社の査定額で、金額が違います。どれを基準にするかを先に決めないと代償金の額が着地しません。査定額を使うなら複数社から取り、幅として扱います。
介護。親の世話をしていた側は寄与分を、していない側は生活費の使い方を持ち出します。寄与分は通常期待される程度を超える貢献かどうかで判断されるため、領収書や記録が残っているかで結論が変わります。
生前贈与。住宅資金や学費の援助は特別受益として持ち戻しの対象になり得ます。
後ろの二つには期限が付きました。相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割には、特別受益と寄与分の規定が適用されません。例外は、10年を経過する前に相続人が家庭裁判所へ遺産分割の請求をしたときなどです(民法第904条の3。出典:e-Gov法令検索 民法・2026年7月30日確認)。放置しても不公平は是正されず、主張できる材料のほうが先に消えます。
期限は四段。3か月、10か月、3年、10年
| 期限 | 何の期限か | 外したときに起きること |
|---|---|---|
| 3か月 | 相続の承認または放棄。自己のために相続の開始があったことを知った時から(民法第915条) | 単純承認として扱われる。家庭裁判所で伸長を求める道はある |
| 10か月 | 相続税の申告と納税 | 分け方が未定でも申告が必要。特例の一部が使えない |
| 3年 | 相続登記の申請義務。空き家の特別控除の売却期限 | 過料の対象になる。控除の枠が閉じる |
| 10年 | 特別受益と寄与分の主張(第904条の3) | 原則として法定相続分での分割になる |
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が必要で、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。義務化の施行は令和6年4月1日、施行前に相続していた不動産は令和9年3月31日までが期限です(出典:法務省 相続登記の申請義務化に関するQ&A・2026年7月30日確認)。
決まらないまま期限が来たときの逃げ道が二つ。登記は相続人申告登記で、特定の相続人が単独で申し出ることができ、申出をした相続人についてのみ義務を履行したものとみなされます。税は未分割のまま相続分の割合で申告し、申告期限後3年以内の分割見込書を出す形です。どちらも先送りの措置で、権利の確定ではありません。
税の枠は、分け方と誰が取るかで開いたり閉じたりする
居住していた宅地には小規模宅地等の特例があり、330平方メートルまで評価額の80パーセントを減額できます。同居親族が取る場合は申告期限まで居住と保有を続けること、別居の親族が取る場合はいわゆる家なき子の要件(被相続人に配偶者がいないことなど)を全部満たすことが条件で、いずれも申告書への記載と書類の添付が要ります(出典:国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)。誰が取るかで枠が閉じることがあります。
売って分ける場合は、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例があります。控除は最高3,000万円、令和6年1月1日以後の譲渡で取得した相続人が3人以上なら上限2,000万円。期限は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日までの譲渡。昭和56年5月31日以前に建築された家屋、相続の時から譲渡の時まで事業や貸付けや居住に使っていないこと、売却代金1億円以下も要件です(出典:国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)。一度貸すと使えないため、賃貸に出す判断はこの枠を捨てる判断でもあります。
決まらないまま申告期限が来ると、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は使えません。相続分の割合で申告し、分割後に更正の請求をします。請求は分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます(出典:国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告)。
相続税がかかるかは、遺産全体と基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の差で決まります(出典:国税庁 No.4152 相続税の計算)。令和5年分の課税割合は9.9パーセントでした(出典:国税庁 令和5年分 相続税の申告事績の概要)。多くの家で先に問題になるのは税額でなく、分け方と維持費です。
まとまらないときの順番。協議、調停、審判
協議が調わないとき、またはできないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(民法第907条第2項)。入口は遺産分割調停。申立先は相手方の一人の住所地の家庭裁判所か合意で定める家庭裁判所、費用は被相続人1人につき収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手(郵便料は裁判所ごとに違う)です(出典:裁判所 遺産分割調停・2026年7月30日確認)。
合意ができなければ審判に移ります。基準は、遺産に属する物や権利の種類と性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活の状況その他一切の事情です(第906条)。祭祀を主宰する人が決まらない場合も家庭裁判所が定めます(第897条第2項)。
弁護士を入れる線は、感情の強さではなく事実で引きます。連絡が取れない相続人がいる、評価額の主張が離れたまま動かない、相続人の一人が遺産を先に処分した、のいずれかです。最後の場合、共同相続人の全員の同意があれば処分された財産を遺産として存在するものとみなせます(第906条の2)。
遺産分割の前でも、各共同相続人は預貯金債権のうち相続開始時の債権額の3分の1に自分の相続分を乗じた額まで単独で払い戻しを請求できます。上限は債務者ごとに法務省令で定める額です(第909条の2)。
編集部は士業ではないため、税額の計算や分け方の当否は判断しません。先に手を付けるのは3か月の判断、10か月の申告、3年の登記、10年の主張期限の四つで、その手前に引き取る人の年額を置きます。全体の順番と費用の並びは実家じまいとは?進め方と費用の全体像を7ステップで解説にあります。
