借地の建物の解体費用は誰が払う?契約書で決まる部分
借地に建つ実家の始末を調べていくと、解体費用を誰が出すのかで手が止まる。
原則は建物の所有者、つまり借地人の側の負担。これを外せるのは契約書の条項と、借地借家法13条の建物買取請求権の2つだけ。判断の起点は、契約日が平成4年8月1日より前か後か(2026年8月6日時点の条文で確認)。
この記事の目次
負担者は「所有者・契約書・終わり方」の3つで決まる
借地の解体費用は、法律のどこかに借地人が払うと書いてあるわけではない。3つの層が重なって結論が出る。
- 建物を誰が持っているか。借地は土地だけを借りて建物は借地人が自分の名義で持つ形が普通で、自分の持ち物を壊す費用は自分に来る。
- 土地賃貸借契約書に何と書いてあるか。契約終了時は更地にして返還するという条項があれば、契約上の義務としてそのまま効く。
- 契約がどう終わるか。期間満了で更新されずに終わるのか、借地人側から解約するのか、地主から明け渡しを求められているのか。ここだけが法律で結論をひっくり返せる入口になる。
最初に見るのは契約書の日付。平成4年8月1日で適用法が分かれる
現在の借地借家法(平成3年法律第90号)は1991年10月4日公布、施行は平成4年(1992年)8月1日とされている(国土交通省の定期借地権解説ほか、2026年8月6日確認)。
附則第2条は旧借地法(大正10年法律第49号)と建物保護に関する法律を廃止した。附則第4条は施行前に生じた事項にも適用するとしつつ、重要な部分を例外にしている。
- 附則第6条:施行前に設定された借地権の契約の更新は、なお従前の例による
- 附則第5条:施行前に設定された借地権の建物の朽廃による消滅は、なお従前の例による
- 附則第7条:施行前に設定された借地権の建物再築による期間の延長は、なお従前の例による
- 附則第9条・第11条:13条2項、18条は施行前に設定された借地権には適用しない
平成4年7月31日以前に設定された借地権は、更新や存続期間の骨格が旧借地法のまま動き続ける。契約書が残っていれば締結日、なければ建物の登記事項証明書の新築年月日が手がかりになる。
契約書に更地返還と書いてある場合、書いていない場合
土地賃貸借契約書に「建物を収去し更地にして明け渡す」といった条項があれば、解体費用は借地人側の契約上の負担になる。
賃貸借は引渡しを受けた物を契約終了時に返還する契約であり(民法601条)、賃借人は借用物に附属させた物を収去する義務を負う(民法622条が準用する民法599条1項)。原状回復義務は民法621条にある。
| 契約書の書き方 | 効いてくる範囲 |
|---|---|
| 建物を収去して更地で返還する | 建物本体と付属物の撤去 |
| 地中埋設物を含めて更地で引き渡す | 旧建物の基礎、古い浄化槽、井戸、コンクリート殻まで及ぶことがある |
| 記載なし | 民法の原則に戻る。範囲は個別の交渉と解釈になる |
契約書に地中埋設物の文言があるかは、解体業者に声をかける前に確認しておく。
有益費の償還請求は民法608条2項にあるが、原状回復を借地人負担とする特約が有益費償還請求権の放棄と解釈された裁判例もある。
更地にしないで済む唯一の条文が建物買取請求権(借地借家法13条)
解体費用の話を法律側からひっくり返せるのが借地借家法13条1項になる。
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
- 「請求することができる」。借地人側の一方的な意思表示で効力が生じ、地主の承諾は条文上の要件になっていない。
- 時価で買い取る。買い取られれば建物は地主のものになるので、借地人が解体費用を出す理由が消える。
- 入口は「存続期間が満了した場合において、契約の更新がないとき」。借地人側からの解約、合意解約、地代不払いによる解除はこの文言に乗らない。
建物を第三者が取得したのに地主が賃借権の譲渡を承諾しない場合、その第三者が買取を請求できる規定が14条にある。19条1項は、地主に不利となるおそれがないのに承諾しないときは裁判所が承諾に代わる許可を与えられるとしている。更地にして返せと言われたら|建物買取請求権という条文で使い方と限界を分けている。
定期借地権なら結論が反転する(22条・23条・24条)
平成4年8月1日以降に設定された契約には、更新のない類型がある(国土交通省の解説と条文、2026年8月6日確認)。
| 類型 | 期間 | 13条の買取請求 | 書面 |
|---|---|---|---|
| 一般定期借地権(22条) | 50年以上 | しない旨を定められる | 公正証書による等書面(電磁的記録も可) |
| 事業用定期借地権等(23条) | 10年以上50年未満 | 1項は特約可、2項は13条自体を適用しない | 公正証書 |
| 建物譲渡特約付借地権(24条) | 設定後30年以上経過した日に譲渡 | 地主が相当の対価で建物を取得する形 | 条文上は書面要求なし |
| 普通借地権(3条・5条・6条) | 30年、更新後は20年・10年 | 使える | 要求なし |
住宅の借地で事業用定期借地権は使えない(23条は居住用を除く事業用建物に限る)。
普通借地権の存続期間は3条で30年、更新後は4条で最初が20年、以降10年。更新請求は5条、地主が更新を拒む場合の正当事由は6条にあり、明け渡しの条件として財産上の給付をする旨の申出も考慮するとしている。立退料の話がここに出てくる。
解体費用の相場と、見積で後から乗る費目
解体一括見積のクラッソーネの坪単価の目安は、木造3万〜4万円/坪、鉄骨造4万〜6万円/坪、鉄筋コンクリート造5万〜8万円/坪(2026年8月6日確認)。同社の試算では50坪の木造で155万〜220万円、100坪で310万〜440万円という幅になる。地主向けに解説している不動産相続アーキテクツは木造3万〜5万円/坪を挙げ、直近は相場が上がっていると注記している。
坪単価に含まれていないことが多いのは次の費目だ。
- アスベストの事前調査と除去(築年数が古いほど当たりやすい)
- 付帯工事。ブロック塀、門扉、カーポート、樹木、庭石
- 残置物の処分。家具や仏具が残っていると産業廃棄物側の単価になる
- 重機が入らない場合の手壊し、道路が狭い場合の小運搬
- 地中埋設物の撤去。旧基礎、浄化槽、井戸
庭木や庭石は解体見積の外に置かれやすい。庭石の処分費用はいくら?運び出しで決まる相場の話で重量と搬出経路で決まる構造を分けている。
借地ではもう一段ある。工事の前に地主の承諾を取り、更地にしてよいという合意を書面にしておかないと、解体後に返還条件で揉める。
地主が費用を持つ、または分担になる場面
借地人負担が原則でも、費用の出どころが変わる場面が4つある。
1. 建物買取請求権が成立したとき
13条で地主が建物を時価で取得すれば、その後の解体は地主の判断と負担になる。
2. 地主から明け渡しを求められているとき
地主側の都合で終わらせたい場合、6条の正当事由を補う趣旨で財産上の給付、いわゆる立退料が申し出られることがある。この給付に解体費用相当を含める形は交渉として成立しうるが、金額の基準は条文にない。
3. 契約書に地主負担の定めがあるとき
数は多くないが、返還時の建物処理を地主が行うと書かれている契約は存在する。真っ先に探す価値がある条項になる。
4. 借地権ごと第三者に売るとき
建物を残したまま借地権を売れば、解体は買った側の話になる。ただし賃借権の譲渡には地主の承諾が要り(民法612条1項)、承諾なしの譲渡は解除の理由になる(同条2項)。承諾が得られない場合の裁判所の許可が借地借家法19条1項だ。
承諾料の水準は法律に定めがなく、慣行として比率で示される。弁護士事務所の解説では、譲渡承諾料は東京地裁の借地非訟部の運用として借地権価格の10パーセント(2026年8月6日確認)、建替承諾料は更地価格の3〜5パーセント程度、非堅固から堅固への条件変更を伴う場合は更地価格の10パーセント程度とされている。
解体する前に確認しておく4つ
借地権の対抗力が消える
借地借家法10条1項は、借地権の登記がなくても、借地権者が登記されている建物を所有していれば第三者に対抗できるとしている。建物を壊せばこの対抗力の根拠が消える。10条2項は、建物を特定する事項と滅失日、新たに築造する旨を土地の見やすい場所に掲示すれば効力が続くとしているが、滅失から2年を経過した後は、その前に建物を築造して登記した場合に限られる。
滅失登記は1か月以内
建物が滅失したときは、表題部所有者または所有権の登記名義人が、滅失の日から1か月以内に滅失登記を申請しなければならない(不動産登記法57条)。放置すると建物の登記が残り、固定資産税の課税が続く扱いになりうる。
相続税評価は借地権割合で見る
国税庁は、借地権の価額は自用地としての価額に借地権割合を乗じて求め、その割合は路線価図や評価倍率表に表示されるとしている(No.4611、令和7年4月1日現在法令等)。記号はAが90パーセント、Bが80、Cが70、Dが60、Eが50、Fが40、Gが30。
相続で引き継いだ借地の場合
借地権は相続で承継される。相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する(民法896条)。名義変更のために地主の承諾を取る場面ではない。相続を理由に承諾料を求められた場合は、譲渡(民法612条)と相続(民法896条)が別物であることが前提になる。
相続放棄をすれば負担を負わないのが原則だ。ただし民法940条1項は、放棄した者が放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、引き渡すまで自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないとしている。相続財産の全部または一部を処分すると単純承認とみなされる(民法921条1号)ので、放棄を考えている段階で家財を片付ける行為は先に確認が要る。
税の側では、被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例がある。国税庁の解説(No.3306、令和7年4月1日現在法令等)では、対象は昭和56年5月31日以前に建築された家屋で、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売り、売却代金が1億円以下であることなどが要件になる。控除額は最高3000万円、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2000万円。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡だ。
相続直後にどこから手を付けるかは借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口で分けている。
確認する場所の分け方
| 知りたいこと | 当たる場所 |
|---|---|
| 条文そのもの | e-Gov法令検索(借地借家法・民法・不動産登記法) |
| 契約書の解釈、更新料や承諾料の交渉、地主との紛争 | 弁護士。借地非訟の申立ては土地の所在地を管轄する地方裁判所 |
| 借地権の評価額、相続税、空き家特例の適用 | 税理士。評価の考え方は国税庁のタックスアンサーと路線価図 |
| 滅失登記、建物の登記事項 | 法務局。土地家屋調査士 |
| 解体工事の金額 | 解体業者の相見積。付帯工事とアスベストの扱いを揃えて比較する |
残存期間が分からないまま工事を発注すると、13条を使える場面だったかどうかを後から検証できなくなる。
