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借地上の実家を手放す方法|返還と放棄と国庫帰属の違い

借地の上に建つ実家を手放したい、と調べてたどり着く人は多い。結論から書く。借地権だけを選んで捨てることはできず、実際に取れる出口は、地主に返す・第三者に売る・底地とまとめて売る・相続放棄の4つに絞られる。

相続土地国庫帰属制度は借地には使えない。分かれ目は契約日が1992年8月1日より前かどうか。以下は2026年8月6日時点の法令で確認した内容。

この記事の目次
  1. 借地の実家は「土地ごと相続した実家」と何が違うか
  2. 最初に見るのは契約書の日付。1992年8月1日で法律が分かれる
  3. 借地の実家を手放す出口は4つしかない
  4. 出口1 地主と合意して返す。更地にする費用が最大の壁
  5. 出口2 第三者に売る。地主が承諾しないときは裁判所に持ち込める
  6. 出口3 地主に買ってもらう、底地とセットで売る
  7. 出口4 相続放棄。借地権だけを選んで捨てることはできない
  8. 相続土地国庫帰属制度は、借地には使えない
  9. 借地権の相続税評価は、路線価図の記号で決まる
  10. 更新料と承諾料。相場はあるが、支払義務は別の話
  11. 手放す前に確認する順番

借地の実家は「土地ごと相続した実家」と何が違うか

借地に建つ実家では、引き継ぐものが建物の所有権と、その建物を建てておくために土地を使う権利(借地権)に分かれる。借地借家法2条1号は借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義している。

相続そのものには地主の承諾も承諾料もいらない

公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会の紙上研修(vol.159、柴田龍太郎弁護士、Realpartner 2017年4月号)は、借地人が死亡して配偶者が相続した場合は承諾料が発生しないと整理している。一方、特定遺贈、生前贈与、相続した人からさらに別の相続人への名義書換には承諾料が発生するとしている。

最初に見るのは契約書の日付。1992年8月1日で法律が分かれる

現在の借地借家法(平成3年法律第90号)は1992年(平成4年)8月1日に施行され、それ以前に設定された借地権にも原則として適用される(附則4条)。ところが附則には特別の定めが置かれている。

  • 附則5条 施行前に設定された借地権について、建物の朽廃による消滅は従前の例による
  • 附則6条 施行前に設定された借地権の契約の更新は従前の例による
  • 附則7条 施行前に設定された借地権について、建物の再築による存続期間の延長は従前の例による

実家の借地契約が1992年7月31日以前に始まっているなら、存続期間や更新のルールは廃止前の借地法のまま動いている可能性が高い。東京地方裁判所の借地非訟の案内も、更新後の建物再築許可の申立てについて「本申立ては、平成4年8月1日以降に設定された借地権についてのみ適用されます」と明記している。契約書を探し、いつ設定された借地権かを最初に確定させる。

定期借地権かどうかも日付で判断できる

更新がなく期間満了で終わる定期借地権(借地借家法22条、存続期間50年以上、公正証書による等書面が必要)はこの法律で新設された枠組みで、1992年8月1日より前の契約には存在しない。

借地の実家を手放す出口は4つしかない

借地権 放棄という言葉で検索されるが、法律上「借地権だけを放棄する」手続きは用意されていない。実務で成立するのは次の4つだ。

出口やること主な負担地主の同意
1 合意して返す借地契約を合意で終了させ、土地を返還する建物の解体費(特約による)必要
2 第三者に売る建物と借地権を買主に譲渡する譲渡承諾料、仲介手数料必要。拒まれた場合は裁判所の許可(借地借家法19条)
3 地主に買ってもらう/底地とセットで売る地主に借地権を買い取ってもらう、または底地と借地権をまとめて第三者へ価格交渉。時間がかかる必要(相手が地主)
4 相続放棄家庭裁判所に相続放棄を申述する他の遺産もすべて失う不要

ただし4を選ぶと預貯金を含む遺産全体を失う。まず1から3を検討し、解体費や地代の負担が遺産全体を上回ると判断したときに4を検討する。

裁判所の案内によれば、相続放棄の申述は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に行う。1から3の交渉を進めているうちに3か月が過ぎると、4が事実上消える。

出口1 地主と合意して返す。更地にする費用が最大の壁

契約終了時に建物を取り壊して更地で返す特約が置かれていることが多く、この場合の解体費はあなたの負担になる。

期待されがちなのが建物買取請求権だが、使える場面は限られる。借地借家法13条1項は「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」と定めている。存続期間の満了と、更新がないことが前提になっており、期間の途中で返したいと申し出る合意解除はこの条文の場面ではない。

そのため期間途中で手放す場合、建物を地主に買い取らせる法的な根拠は基本的に無く、交渉次第になる。条文の要件と例外は更地にして返せと言われたら|建物買取請求権という条文で扱っている。

解体費は先に幅で把握してから交渉に入る

解体費は構造、延床面積、前面道路の幅、残置物の量で変わる。借地は敷地が狭く重機が入りにくい立地も多く、相場表の下限では収まらない。

解体費を先に幅で押さえる

更地返還の条件を地主と詰める前に、建物の解体にいくらかかるかを複数社の見積もりで把握しておく。

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出口2 第三者に売る。地主が承諾しないときは裁判所に持ち込める

ただし賃借権の譲渡には地主の承諾が必要で、承諾料を求められるのが通例だ。

借地借家法19条1項は、第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所が借地権者の申立てにより承諾に代わる許可を与えることができると定めている。この借地非訟事件について、東京地方裁判所の案内は6類型を挙げている。

  • 借地条件変更申立事件(借地借家法17条1項)
  • 増改築許可申立事件(同17条2項)
  • 更新後の建物再築許可申立事件(同18条1項、1992年8月1日以降に設定された借地権のみ)
  • 土地の賃借権譲渡又は転貸の許可申立事件(同19条1項)
  • 競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(同20条1項)
  • 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件(同19条3項、20条2項)

最後の類型のとおり、地主には自ら建物と借地権を優先的に買い取る介入権がある。裁判所の案内は、多くの事件が特段の事情がなければおおむね1年以内に終わっているとしている。裁判所は借地権者が支払う金銭の額も判断し、弁護士、不動産鑑定士、有識者から3人以上の鑑定委員を指定して意見を聴く仕組みが置かれている。

出口3 地主に買ってもらう、底地とセットで売る

借地権と底地(借地権が付いた土地の所有権)は、別々だとどちらも売りにくく、ひとつにまとまると普通の土地として売れる。地主に借地権を買い取ってもらう、底地を買い取って完全所有権にしてから売る、地主と共同で第三者へ同時に売る、という組み合わせが成立しやすい。

ただし相手も高齢、相続が発生している、共有といった事情で話が止まることは珍しくない。

  1. 契約書と登記事項証明書で、借地権の種類、契約日、残存期間、地代、特約を確定する
  2. その土地の相場観を掴む(借地権付き建物として売れるのか、底地とセットでないと動かないのか)
  3. 地主に、返還ではなく売買の相談として持ちかける

相続直後で何から手を付けるか決まっていない場合は、借地に建つ実家を相続したら|最初に確かめる3つと4つの出口で確認の順番を扱っている。

出口4 相続放棄。借地権だけを選んで捨てることはできない

残るのが相続放棄になる。裁判所の案内では、申述は3か月以内に被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して行い、費用は申述人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便料(額は裁判所ごとに異なる)とされている。

放棄するつもりなら建物に手を出さない

検討している段階で建物を解体する、家財を処分して換価する、地代を遺産から払うといった行為は、相続財産の処分と評価されて放棄ができなくなるおそれがある。

放棄しても保存義務が残る場合がある

民法940条1項は、相続の放棄をした者は、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならないと定めている。

誰も相続しない場合、建物は相続財産清算人が選任されて処理されるが、申立てには家庭裁判所が定める予納金が必要になる。

相続土地国庫帰属制度は、借地には使えない

実家じまいの検索で並ぶ相続土地国庫帰属制度は、借地の出口にはならない。法務省の案内によれば、相続または相続人に対する遺贈によって土地の所有権もしくは共有持分を取得した人が国に引き取ってもらう制度で、借地権者は申請できる立場に当たらない。却下要件も次のとおり並ぶ。

  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地

審査手数料は土地一筆当たり14,000円(収入印紙で納付し返還されない)、承認された場合の負担金は10年分の標準的な管理費用を考慮して算定される(法務省ページ、2026年8月6日確認)。この制度に期待して時間を使うと、相続放棄の3か月を消費する。

借地権の相続税評価は、路線価図の記号で決まる

借地権は財産なので、相続税の課税対象に入る。

国税庁のタックスアンサーNo.4611「借地権の評価」(令和7年4月1日現在法令等)は、借地権割合が路線価図や評価倍率表に表示されていると説明している。路線価図の説明によれば、借地権割合は記号で示され、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%に対応する。路線価は1平方メートル当たりの価格を千円単位で表示するので、215Dなら1平方メートル当たり215,000円、借地権割合60%という読み方になる。

裏返すと、地主が持つ底地の評価は国税庁No.4613「貸宅地の評価」の「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」で求める。定期借地権は計算方法が別だ。

評価と申告は数字を持って相談する

路線価図で借地権割合を確認したら、実際の評価額と申告の要否は相続税を扱う専門家に確認する。

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更新料と承諾料。相場はあるが、支払義務は別の話

手放す判断の前に更新の時期が来ることもある。ここで揉めやすいのが更新料だ。

最高裁第二小法廷・昭和51年10月1日判決(最高裁判所裁判集民事119号9頁、判例時報835号63頁)は、更新料を支払う慣習があることを理由とする支払義務を認めなかった。ただし契約書に更新料の定めがある場合の扱いは事案ごとに判断が分かれる。

任意に授受される場合の目安として、同研修は次の水準を示している(Realpartner 2017年4月号)。

名目目安基準
更新料(法的請求権なし)3〜5%/2〜4%借地権価格/更地価格
条件変更を伴わない建替え、増改築3〜5%前後更地価格
条件変更承諾料(非堅固から堅固へ)10%前後更地価格
名義書換料(譲渡承諾料)10%前後借地権価格
居住用の地代固定資産税相当額の2〜3.5倍公租公課

売って手放す場合に効くのは名義書換料だ。借地権価格の10%前後という示され方なので、売却価格の見込みが立たないと負担額も見えない。

手放す前に確認する順番

  1. 契約書を探す。設定日が1992年7月31日以前か以降かで、更新と存続期間のルールが変わる(借地借家法附則5条から7条)。定期借地権かどうかもここで分かる
  2. 登記事項証明書で建物の名義と抵当権を確認する。借地権は登記されていないことも多く、契約書が唯一の証拠になる場合がある
  3. 地代の支払状況を確認する。滞納があると、交渉の前に契約解除のリスクの話になる
  4. 相続放棄の3か月をカレンダーに置く。交渉に時間を使う前に、いつまでに判断が必要かを固定する
  5. 解体費と売却見込みを、それぞれ幅で把握する。この2つの数字が出るまで、地主に返還を申し出ない
  6. 路線価図で借地権割合を確認する。相続税の要否は数字を持って専門家へ

放棄しても現に占有していれば保存義務が残る(民法940条1項)点は、空き家一般の管理義務との関係も含めて空き家を相続放棄しても管理義務は残る?で扱っている。

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実家じまいナビ編集部

実家じまいナビ編集部 |沖縄に売れない土地を持つ当事者が運営

実家じまいナビ編集部です。運営者自身が沖縄に売れない土地を相続し、出口が見つからないまま維持している当事者です。役所と業者を回って分かった順番、実際にかかる費用、先に知っておけば防げたことを記録しています。法令の解釈が必要な部分は断定せず、調べ方と相談先を示す方針です。

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