実家を買取に出す判断|仲介より安くなる分の対価

実家の買取を調べていると、最初に「仲介より安い」に行き当たります。
目安は仲介で売れる想定価格の7〜9割、条件が重なると5割前後まで下がります。その差は価格を捨てて確実性と手間を買う対価です。売却価格が800万円以下なら2024年7月の仲介手数料の改正も手取りに効くので、両方を並べて計算します。
この記事の目次
買取と仲介の差は「値段の差」ではなく「確実性の差」
買取は不動産会社が自分で買主になる取引、仲介は会社が買主を探してくる取引です。この違いが価格・期間・売却後の責任に効いてきます。価格の目安は各社の解説で仲介での売却価格の7〜9割とされ、難易度が高い物件では5割程度まで下がることもあると併記されています(HOME4U、スターマイカの解説ページ、2026年7月31日確認)。
| 比べる項目 | 仲介 | 買取 |
|---|---|---|
| 価格 | 市場価格に近い | 仲介想定の7〜9割(条件により5割前後) |
| 期間 | 買主が見つかるまで数か月から1年以上 | 査定から引き渡しまで数日から1〜2か月 |
| 仲介手数料 | かかる | かからない(業者が買主のため) |
| 内覧 | 必要 | 不要なことが多い |
| 残置物 | 撤去してから引き渡すのが基本 | 残したまま買い取る業者がある |
| 契約不適合責任 | 売主が負う | 免責特約が付くことが多い(要確認) |
| 近隣への露出 | 広告するため知られやすい | 広告しないため知られにくい |
空き家が売れないときの選択肢|買取と値下げの判断のとおり、売れない期間そのものが費用を生みます。
引かれている1〜3割は、何の対価なのか
買取価格が下がるのは、買い取った後に業者側が負担する費用と抱えるリスクが、査定の段階で引かれているためです。
- リフォーム費または解体費。買った状態のままでは再販できないことが多い
- 再販するときに業者が次の買主へ負う契約不適合責任。不具合を直してから売る必要がある
- 在庫として持っている間の資金コストと固定資産税
- 再販時の広告費や仲介手数料
- 想定より安くしか売れなかった場合の損失を織り込む分
この価格は解体費とリフォーム費をいくら見込んだ結果か、と聞けば、答えられる業者と答えられない業者に分かれます。
買取なら仲介手数料はゼロ。ただし2024年7月に仲介側の計算が変わった
買取では仲介手数料がかかりません。ただし2024年に仲介側のルールが変わったため、差額の計算をやり直す必要があります。宅地建物取引業者が受け取れる報酬額の告示(昭和45年建設省告示第1552号)が改正され、令和6年国土交通省告示第949号として2024年7月1日に施行されました。売買代金800万円以下の宅地・建物は低廉な空家等とされ、媒介報酬の上限が30万円の1.1倍、税込33万円まで受け取れます(国土交通省の公表資料、2026年7月31日確認)。
従来の速算式(売買代金の3%+6万円+消費税)が使えるのは800万円を超える取引です。売買代金300万円の実家なら、速算式で15万円前後だった上限が最大33万円まで上がり得ます。地方の実家は800万円以下に収まることが珍しくないため、古い計算のままだと買取との差を大きく見積もることになります。
これは上限であって、必ず33万円になるわけではありません。媒介契約を結ぶ前に報酬額を説明し合意することが求められているので、契約書の金額欄をその場で確認してください。
提示額ではなく手取りで比べる
買取と仲介は手取り額で比べます。
- 仲介手数料(買取は不要。仲介は800万円以下なら上限33万円)
- 残置物の処分費、ハウスクリーニング費
- 解体費、測量費(求められた場合)
- 登記費用、印紙代
- 譲渡所得税と住民税(後述の特例が使えるかで大きく変わる)
- 売れるまでの保有コスト。固定資産税・都市計画税、火災保険、草刈りや現地に通う交通費
毎年出ていく分は、査定額の話が始まる前から減っている
編集部は沖縄の傾斜地を相続し、売却・寄付・国庫帰属と出口を順に検証しましたが、どれも成立せず、いまも保有したままです。固定資産税は年約7万円。この額が、判断を先延ばしにした年数の分だけ確定で出ていきます。買取の提示額を見て安いと感じたとき、本当の比較対象は仲介の想定価格ではなく、待ち続けた場合の手取りです。
買取と仲介、両方の金額を先に並べる
手取りの比較は、査定額が2つ以上そろわないと始まりません。複数社の査定を一度に取り寄せて、買取の提示額と仲介での想定価格を並べるところから始めてください。金額を見てから、売るかどうかを決めて構いません。
無料で査定額を調べる買取のほうが現実的になりやすい実家の条件
次のどれかに当てはまる実家は、仲介で買主を探すより買取のほうが現実的な選択肢になりやすい類型です。
- 再建築不可、接道義務を満たしていない、旗竿地で重機が入らない
- 築年数が古く、住むにはリフォームより建て替えのほうが安く済む
- 残置物が大量にあり、片付けから始めなければ内覧に出せない
- 相続人が遠方に住んでいて、内覧の立ち会いや草刈りに通えない
- 相続人が複数いて、期限を決めて現金で分けたい
- 事故物件、共有持分、借地・底地、連棟など、権利や心理面の事情がある
- 近隣に売却を知られたくない
逆に、駅から近い、更地にすれば普通に建てられる、築年数が浅い、時間に余裕があるなら、まず仲介で売り出してから判断しても遅くありません。反応がない場合に価格の問題か物件条件の問題かを切り分ける手順は実家が売れない理由と、値下げ以外に打てる手にまとめています。
更地にしてから出すか、現況のまま査定に出すか
更地にしたほうが高く売れるのでは、と考えるのは自然ですが、順番を間違えると費用だけが増えます。建物を壊すと住宅用地の課税標準の特例(地方税法第349条の3の2)から外れます。住宅が建っている間は固定資産税の課税標準が小規模住宅用地で6分の1、一般住宅用地で3分の1ですが、更地にすると翌年度から外れます。買主が決まらなければ、税負担が増えた状態で待つことになります(2026年7月31日時点の制度)。
解体費をかけた分だけ価格が上がるとも限りません。実務的にはこの順番になります。
- 現況のまま複数社に査定を出す
- 同じ業者に「更地にして引き渡した場合はいくらか」も聞く
- その差額と、実際の解体見積もり、解体後に増える固定資産税を並べる
- 差額が解体費を明確に上回るときだけ、自分で解体する
解体前提の査定を出されたら、解体費の相場も自分で持っておく
「解体費を引いてこの価格です」と説明されたとき、その解体費が妥当かどうかは相場を持っていないと判断できません。複数社の解体見積もりを比べて、引かれている金額の当否を確かめてください。
無料で解体費用を比べる3000万円控除は買取でも使える。2024年からは解体を買主に任せても使える
買取でも売却益が出れば譲渡所得として課税され、使える特例は仲介と同じように検討できます。個別の税額計算や適用可否の判断は税理士か税務署の領域なので、ここでは要件の枠だけを示します。
相続した空き家の3000万円特別控除
被相続人が住んでいた家屋とその敷地を相続して売った場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から最高3000万円を控除できます。国税庁のタックスアンサーNo.3306(2026年7月31日確認)で示されている主な要件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間の譲渡であること
- 相続のときから売却のときまで、事業・貸付け・居住に使われていないこと
- 令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合、控除の上限は2000万円になる
買取と関係が深いのは、令和6年1月1日以後の譲渡から加わった扱いです。売却してから翌年2月15日までに買主が耐震改修または取壊しを行った場合も対象になります。以前は売主が自分で解体してから売る必要がありましたが、いまは解体を買主側に任せる形でも要件を満たし得ます。期限までに買主が実際に工事を行うことが前提なので、契約書の定め方を業者と税理士の両方に確認してください。
取得費加算の特例
相続税を納めている場合、申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売れば、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算できます(国税庁タックスアンサーNo.3267、2026年7月31日確認)。3000万円控除とどちらを使うかで有利不利が分かれるので、両方の数字を出して税理士に判断を仰ぎます。
事故物件・訳ありの事情は、最初に全部伝えたほうが高く着地する
国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を令和3年10月8日に公表しています。賃貸では事案の発生からおおむね3年が経過した後は原則として告げなくてよいとされますが、売買にはこの期間の目安が示されていません(2026年7月31日確認)。年数が経っていても告知の検討が必要になると考えておくべきです。
買取業者はこうした事情を織り込んで査定します。最初に全部伝えたほうが、後から発覚して価格をやり直されるより高く着地します。伝えずに契約すれば、契約不適合責任や損害賠償の問題が引き渡し後まで残ります。
あわせて、契約書に契約不適合責任の免責特約が入っているかを確認してください。免責は買取の利点として挙げられることが多いものの、扱いは業者によって異なります。口頭の説明ではなく書面で確かめる項目です。
名義が親のままだと、買取のスピードは意味を持たない
買取の利点は速さですが、相続登記が終わっていなければ、そこで手続きは止まります。
相続で不動産の所有権を取得した相続人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。施行日は令和6年4月1日で、施行前の相続も対象となり、その場合は令和9年3月31日まで(法務省サイト、2026年7月31日確認)。
暫定策の相続人申告登記について、法務省は権利関係を公示するものではなく、売却や抵当権の設定には相続登記が必要だと明記しています。売る前提なら相続登記まで終わらせる必要があります。
相続人が複数いて共有になっている場合は、売却に全員の同意が要ります。誰が何に反対しているのかによって打てる手が変わるため、査定を取るのと並行して、そこを先に確かめておくと時間を無駄にしません。
業者の見分け方と、断られたときの次の一手
買取は1社の提示額では適正か判断できません。業者が持っている再販の出口によって金額が変わるためです。事故物件に強い業者と、共有持分の権利調整に強い業者は同じではありません。
依頼する前に見るところ
- 宅地建物取引業の免許番号。括弧内の数字は更新回数で、営業年数のおおよその目安になる
- 自分の物件と似た類型の買取実績が公開されているか
- 契約不適合責任の免責を書面で明記できるか
- 残置物を残したままでよいか、処分費を誰が負担するか
- 費用負担が発生する取引になる可能性を、先に説明するか
- 査定額の根拠を、再販の想定と費用の内訳で説明できるか
最低でも3社に同じ資料と同じ事情を伝えて査定を出してもらい、金額と条件を並べます。一括査定で母数を作ってから絞るほうが手数は少なくて済みます。
どこにも断られたとき
買取業者に断られること自体は珍しくありません。次の順で当たり先を変えます。
- 訳あり物件専門の買取業者に切り替える。権利調整や特殊な再販ルートを持っている
- 隣地の所有者に打診する。隣地と一体になれば使える土地になる場合がある
- 自治体の空き家バンクや空き家相談窓口に登録・相談する
- 建物を解体して土地だけにし、相続土地国庫帰属制度の要件に当たるか確認する。建物が建ったままでは申請できない
売る以外の出口も含めた整理は空き家の処分方法4つ|売る、貸す、解体、譲るにまとめています。
