相続土地国庫帰属制度|使える条件と負担金の実額

「いらない土地を国が引き取ってくれる制度」として名前だけ先に広まっていますが、条件を確認せずに動くと審査手数料だけが消えます。
費用は1筆14,000円と負担金20万円が基本。令和8年6月30日現在で申請5,698件に対し帰属2,885件、審査は標準で8か月かかります。落ちる土地には共通点があります。
この記事の目次
申請できるのは「相続で取得した人」だけ
この制度を使えるのは、相続または相続人への遺贈で土地を取得した人に限られます。売買や生前贈与で取得した土地は対象外です(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 第2条1項)。制度が始まったのは令和5年4月27日ですが、それより前に相続した土地でも申請できます。共有地は共有者全員が共同で申請します。相続で持分を得た共有者が1人でも含まれていれば、売買で持分を取得した共有者も一緒に申請できます(同条2項)。
申請先は、土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局の不動産登記部門です。支局や出張所では受け付けません。代理人による申請は認められておらず、提出は本人か法定代理人が行います(書類の作成を専門職に依頼すること自体は可能です)。
入口を分ける3点
- 取得原因が相続または相続人への遺贈か
- 共有者全員の足並みが揃うか
- 土地が却下事由・不承認事由に当たらないか
以下は2026年7月31日時点の法務省の公表内容と現行法令で確認しています。
申請すら受け付けてもらえない土地(却下事由)
法第2条3項に当たる土地は、審査に進む前に却下されます。
- 建物が存する土地
- 担保権または使用収益を目的とする権利が設定されている土地(抵当権、地上権、賃借権など)
- 通路その他の他人による使用が予定される土地を含むもの
- 法務省令の基準を超える特定有害物質で汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地、所有権の存否・帰属・範囲に争いがある土地
3つ目は施行令第2条で、現に通路として使われている土地、墓地内の土地、境内地、現に水道用地・用悪水路・ため池として使われている土地の4つに具体化されています。古家が残っていれば解体してからでないと申請できません。法務省の統計でも却下83件のうち境界が明らかでない土地が21件、通路の用に供されている土地が22件を占めます(令和8年6月30日現在の速報値)。
審査で落とされる土地(不承認事由)
却下事由を抜けても、法第5条1項の不承認事由に当たれば承認されません。
- 崖がある土地のうち通常の管理に過分の費用または労力を要するもの。崖の基準は施行令第4条1項で「勾配30度以上、かつ高さ5メートル以上」と定められています
- 通常の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上に存する土地
- 除去しなければ通常の管理・処分ができない有体物が地下に存する土地
- 隣接地所有者などとの争訟によらなければ通常の管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に過分の費用・労力を要する土地
5号は施行令第4条3項で5類型に具体化されています。災害のおそれがあり現状変更の措置が必要な土地、鳥獣や病害虫の被害が生じるおそれのある土地、市町村森林整備計画に適合しておらず追加の造林・間伐・保育が必要な森林、国庫帰属後に国が金銭債務を負うことが確実な土地、申請者の金銭債務を国が承継することになる土地です。
不承認93件の内訳は、地上の有体物45件、森林の追加整備36件、災害のおそれ11件、金銭債務10件、崖7件。
かかるお金は「手数料」と「負担金」の2段構え
費用は2回発生します。
審査手数料(申請時)
土地1筆あたり14,000円(施行令第3条)。収入印紙で納めます。筆数で計算するので5筆あれば70,000円です。取下げ・却下・不承認になっても返還されません。
負担金(承認後)
承認を受けた人は、国有地の種目ごとに管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して算定した額を納めます(法第10条1項)。支払いは帰属時の1回だけです。金額は施行令第5条で決まっており、宅地・農地・森林の一定の区分に当たらない土地はすべて一律20万円(1,000円未満切り捨て)。市街化調整区域の宅地、農用地区域外の農地、原野や雑種地の多くがここに入ります。納付は納入告知書で日本銀行に行い、法務局の窓口で現金は払えません。
20万円で済まない3つの類型と、実際の計算
面積に応じて算定されるのは次の3類型です。
市街化区域または用途地域内の宅地
| 地積 | 負担金 |
|---|---|
| 50㎡以下 | 地積×4,070円+208,000円 |
| 50㎡超100㎡以下 | 地積×2,720円+276,000円 |
| 100㎡超200㎡以下 | 地積×2,450円+303,000円 |
| 200㎡超400㎡以下 | 地積×2,250円+343,000円 |
| 400㎡超800㎡以下 | 地積×2,110円+399,000円 |
| 800㎡超 | 地積×2,010円+479,000円 |
市街化区域内・農用地区域内などの農地
| 地積 | 負担金 |
|---|---|
| 250㎡以下 | 地積×1,210円+208,000円 |
| 250㎡超500㎡以下 | 地積×850円+298,000円 |
| 500㎡超1,000㎡以下 | 地積×810円+318,000円 |
| 1,000㎡超2,000㎡以下 | 地積×740円+388,000円 |
| 2,000㎡超4,000㎡以下 | 地積×650円+568,000円 |
| 4,000㎡超 | 地積×640円+608,000円 |
主に森林として利用されている土地
| 地積 | 負担金 |
|---|---|
| 750㎡以下 | 地積×59円+210,000円 |
| 750㎡超1,500㎡以下 | 地積×24円+237,000円 |
| 1,500㎡超3,000㎡以下 | 地積×17円+248,000円 |
| 3,000㎡超6,000㎡以下 | 地積×12円+263,000円 |
| 6,000㎡超12,000㎡以下 | 地積×8円+287,000円 |
| 12,000㎡超 | 地積×6円+311,000円 |
隣接する2筆以上は合算を申し出られる
隣接する2筆以上が同じ区分に属する場合、1筆とみなして負担金を算定するよう申し出ることができます(施行令第6条)。所有者が異なる場合は共同で申し出ます。審査手数料は筆数のままなので、合算が効くのは負担金だけです。
数字で見ると、落ちているのは審査ではなく手前
法務省の統計(令和8年6月30日現在の速報値、同年7月16日公表)です。
- 申請件数 5,698件(田・畑2,226/宅地1,973/山林868/その他631)
- 帰属件数 2,885件(宅地1,073/農用地925/森林193/その他694)
- 却下 83件、不承認 93件
- 取下げ 1,063件
申請に対する帰属の比率は約50.6%ですが、申請には審査中が含まれます。結論が出た3,061件で見ると却下・不承認は176件、約5.7%です。実際に多いのは取下げ1,063件のほうで、内訳は有効活用の見込みが生じた562件、却下・不承認であることが判明した375件、その他126件。取下げても手数料は返りません。
自治体や国の機関による有効活用が決まった、隣接地所有者から引き受けの申出があった、農業委員会の調整で農地として活用される見込みになった、といった例が挙げられています。
農地と山林は、同じ制度でも通り方が違う
申請の最多は田・畑で2,226件、全体の約39%です。
農地でも農地法第3条の許可のような手続きは要りません。ただし承認の際に法務大臣は財務大臣と農林水産大臣の意見を聴くことになっており(法第8条)、主に農用地または森林として利用されている土地は帰属後に農林水産大臣が管理します(法第12条1項)。
森林で目立つのは施行令第4条3項3号の追加整備です。市町村森林整備計画に適合しておらず、造林・間伐・保育を追加で実施する必要があると認められる土地は不承認になります。不承認93件のうち36件がこの理由で、手入れが止まって年数が経った山ほど当たります。山林は事前相談で追加整備の要否を確認しておくのが現実的です。
関連して山林を相続したときの手続きと売却の難しさ、農地はいらない農地を相続する前に知っておく3つの逃げ道にまとめています。
手続きの流れと、時間の見積もり
- 事前相談。全国の法務局・地方法務局の本局で対面・電話・ウェブの相談を受け付けています。事前予約制で、政府広報オンラインによれば1回30分です
- 承認申請。申請書と添付書類を管轄の本局に持参または郵送。手数料14,000円分の収入印紙を貼付します
- 書面審査・実地調査。法務大臣は職員に事実の調査をさせることができます(法第6条)
- 承認または不承認の通知。承認の場合は負担金の額も併せて通知されます(法第10条2項)
- 負担金の納付。通知を受けた日から30日以内。納付した時点で所有権が国庫に帰属します(法第11条1項)
期間は、東京法務局、名古屋法務局、さいたま地方法務局、松江地方法務局、秋田地方法務局がいずれも標準処理期間8か月と公表しています。見落とすと痛いのが5番の30日で、期限内に納付しないと承認は効力を失い、最初から申請し直しになります(法第10条3項)。負担金の額は承認まで確定しないため、面積算定になりそうな土地は表から概算を出して用意しておきます。
提出書類は、土地の位置と範囲を明らかにする図面、境界点を明らかにする写真、土地の形状を明らかにする写真、申請者の印鑑証明書が全員必須です。遺贈なら遺言書、登記名義人と申請者が異なる場合は相続関係の書類が加わります。
固定資産税と比べて、元は取れるのか
かかる総額を、その土地の固定資産税の年額で割ります。原則20万円の土地で手数料込み21万4千円なら、年3万円の固定資産税に対して約7年分、年7万円なら約3年分です。
ただし総額は負担金だけではありません。建物があれば解体費用、境界が不明なら測量費用が先に乗ります。測量は数十万円規模になることがあり、ここで制度全体が割に合わなくなる例が少なくありません。
編集部の土地は、この制度の入口で止まっている
編集部は沖縄の傾斜地を相続し、売却・寄付・国庫帰属を出口として検証しましたが、どれも成立せず今も保有を続けています。固定資産税は年約7万円で、毎年そのまま出ていきます。
止まっているのは傾斜と境界の2点です。勾配30度・高さ5メートルという崖の基準に当たるかどうかと、境界杭が確認できない状態のままでは却下事由に触れる可能性があること。この2つが解けないまま、負担金20万円は固定資産税3年分に満たない、という計算だけを何度もやり直してきました。
通らなかったとき、手元に残る選択肢
却下・不承認、あるいは事前相談で見込みなしと分かった場合、動く先は制度の外側です。
- 隣接地所有者への打診。取下げ理由に「隣接地所有者から引き受けの申出があった」が明示されています
- 自治体・国の機関による活用。寄付を受け付けない自治体が多い一方、公共用途で必要になれば話が変わります
- 売却。値がつかないと思っている土地でも、隣地と一体で見れば評価が変わることがあります
- 農業委員会経由の調整。農地は農業委員会の調整で活用される見込みとなったケースが取下げ理由に入っています
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内で、土地だけを選んで放棄することはできません。放棄しても管理義務が完全に消えるわけではない点は農地は相続放棄できる?放棄後も残る管理義務の話で整理しています。
