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農地は相続放棄できる?放棄後も残る管理義務の話

農地は相続放棄できる?放棄後も残る管理義務の話

いらない農地だけを外して相続できないか、という入口で調べている人が多い。

結論から言うと、農地だけの相続放棄はできない。放棄するなら預貯金も自宅も全部が対象で、期限は相続を知ってから3か月。しかも放棄後も、その農地を現に占有していれば保存義務は残る(民法第940条)。

この記事の目次
  1. 農地だけを選んで相続放棄することはできない
  2. 放棄しても管理義務が残るケース(民法940条・2023年4月改正)
  3. 相続放棄の手続きと費用、そして期限内にやってはいけないこと
  4. 全員が放棄した後、その農地はどこへ行くのか
  5. 相続放棄で消えるもの、消えないもの
  6. 放棄せずに農地を手放す4つの出口
  7. 国庫帰属制度は農地でどこまで通っているか(法務省の実数)
  8. 相続放棄と国庫帰属、どちらを選ぶかの分岐
  9. 相続する側に回った場合の期限(3か月・10か月・3年)
  10. 判断する前に確定させる5つ

農地だけを選んで相続放棄することはできない

相続放棄は財産をひとつずつ選んで断る制度ではない。家庭裁判所に申述して受理されると、はじめから相続人でなかったものとして扱われ、農地も預貯金も自宅も借金も一緒に外れる。

期限は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月。申述先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、費用は申述人1人につき収入印紙800円と郵便料(2026年7月31日時点)。

相談者相談者
農地の分だけ相続を辞退する、という書類は無いんですか
実家じまいナビ編集部実家じまいナビ編集部
無い。全部か、全部でないかの二択。だから先に、他にプラスの財産がどれだけあるかを数える

「農地は引き受けない」を成立させたいとき

他にプラスの財産があり受け取りたいなら、遺産分割で他の相続人が農地を取得する形にする。ただし相続人どうしの取り決めなので、被相続人の債務は債権者に対抗できない。

やりたいこと使う手続き引っかかる点
農地も預貯金も全部いらない相続放棄3か月・全財産が対象・撤回できない
農地は要らないが他は受け取りたい遺産分割で他の相続人が取得相手の同意が要る・債務は外れない
自分が取得したうえで手放したい売却/賃貸/転用/国庫帰属取得後に税・登記・届出が発生する

放棄しても管理義務が残るケース(民法940条・2023年4月改正)

放棄が受理されれば所有者にはならないが、農地との縁が全部切れるとは限らない。民法第940条第1項は、放棄の時にその財産を現に占有している人は、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存しなければならない、と定める。2023年(令和5年)4月1日施行の改正で今の形になった。

改正で変わった3点

  • 義務者が現に占有している者に限定された
  • 管理の継続ではなく保存になった。現状を維持する範囲
  • 終わりが明示された。相続人または清算人に引き渡すまで

実家に住みながら畑の草刈りをしてきた、農機具小屋の鍵を持っている、といった状態は現に占有している側に寄る。遠方に住んで所在も見ていない農地なら原則として対象外、という整理が実務解説では共通している。

この改正に経過措置は無く、2023年4月1日より前の相続や、それ以前に済ませた相続放棄にも新しい940条が適用されるという解説がある(藤井義継法律事務所、2026年7月31日確認)。また940条の保存義務は、次に権利を持つ相続人や相続財産清算人に対して負うもので、近隣住民に対する義務ではないと考えられている(神戸さきがけ法律事務所、2026年7月31日確認)。崩れかけた小屋のような工作物を占有していれば、別に工作物責任(民法第717条)が問題になる。

相続放棄の手続きと費用、そして期限内にやってはいけないこと

費用と必要書類

  • 収入印紙800円(申述人1人につき)
  • 連絡用の郵便料。額は裁判所ごとに異なる
  • 相続放棄申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人の戸籍謄本
  • 申述人の立場により、被相続人の出生から死亡までの戸籍などが追加になる
  • 戸籍類の取得実費。兄弟姉妹の申述はとくに増える

(裁判所「相続の放棄の申述」2026年7月31日確認)申述後に照会書が届き、返送して受理されると相続放棄申述受理通知書が交付される。3か月で財産の全体像が掴めないときは、熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申し立てる。

単純承認とみなされる行為

相続財産を処分すると単純承認したものとみなされ、放棄ができなくなる(民法第921条)。農地なら、作物や農機具を売る、貸していた農地の賃料を受け取る、が該当しうる。草を刈る程度の保存行為は処分と限らないが、線引きは事案ごとなので動く前に弁護士に確認する。

全員が放棄した後、その農地はどこへ行くのか

放棄すると次の順位の相続人に権利が移る。子が全員放棄すれば直系尊属、いなければ兄弟姉妹。連絡していないと、役所や債権者からいきなり通知が届く親族が出る。放棄を決めたら次順位に伝える。

相続人が誰もいなくなれば、農地の行き先は相続財産清算人になる。選任の申立て費用は収入印紙800円、郵便切手、官報公告料5,582円。清算人の事務費用が不足する見込みなら申立人が予納金を納めることがあり、額は家庭裁判所が事案ごとに判断する(裁判所「相続財産清算人の選任」2026年7月31日確認)。

放棄そのものは800円で済むが、940条の保存義務を終わらせたいなら引き渡す相手を作る費用が要る。占有していないなら保存義務の対象外で清算人も要らない。

相続放棄で消えるもの、消えないもの

項目相続放棄した場合
農地の所有権取得しない
固定資産税納税義務者にならない。課税台帳の整理に時間差があり通知が届くことがあるので、相続放棄申述受理証明書を添えて市町村の資産税担当に連絡する
農地法第3条の3の届出対象外(届出義務は権利を取得した者に生じる)
保存義務(民法940条)放棄の時に現に占有していれば、引き渡すまで残る
農機具・倉庫などの工作物占有していれば工作物責任が残りうる

放棄せずに農地を手放す4つの出口

放棄できない、すでに3か月を過ぎた、という場合は、いったん取得したうえで手放す設計になる。

1. 農地のまま売る・貸す

買い手や借り手が農業をする前提で、農業委員会の許可(農地法第3条)が要る。候補は地域で限られる。農業委員会や農地中間管理機構(農地バンク)に早めに打診する。

2. 転用してから売る

農地以外に使うには転用手続きが要る。市街化区域内なら宅地等への転用は農業委員会への届出で足りる(農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」2026年7月31日確認)。市街化調整区域では許可が必要で、通らないこともある。造成費の分、手取りは目減りする。

3. 隣で耕している人に引き取ってもらう

面積の小さい農地ほど、隣接地の耕作者が事実上唯一の買い手候補になる。

4. 相続土地国庫帰属制度に出す

国に引き取ってもらう制度で、農地も申請できる。

農地のまま売れるのか、宅地として売れるのかを先に切り分ける

地目・面積・区域区分を入れて複数社の見立てを並べると、売却が現実的な農地か、国庫帰属や隣地への打診に回す農地かの判断材料になる。

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関連記事:農地を相続したらまず何をする?届出と3つの選択肢/いらない農地を相続する前に知っておく3つの逃げ道/農地が売れない5つの理由と、それでも手放す方法

国庫帰属制度は農地でどこまで通っているか(法務省の実数)

相続土地国庫帰属制度は2023年4月27日に始まった。相続や遺贈で取得した土地を、要件を満たせば国が引き取る。法務省の速報値から農地分を抜き出す(令和8年6月30日現在、2026年7月31日確認)。

区分件数
申請 総数5,698件
うち田・畑2,226件
うち宅地1,973件
国庫への帰属 総数2,885件
うち農用地925件
却下83件
不承認93件
取下げ1,063件

申請の約4割が田・畑で地目別では最多。

落ちる型は決まっている

却下83件の理由は、添付書類なし37件、通路の用に供されている土地22件、境界が明らかでない土地21件、建物の存する土地4件。不承認93件は、工作物・車両・樹木などの有体物が地上にある土地45件が最多、追加整備が必要な森林36件、災害の危険11件、崖7件。

取下げ1,063件の中身

内訳は、有効活用の見込みが生じた562件、却下・不承認と判明した375件、その他126件。法務省は有効活用の例に、自治体や国の機関による活用の決定、隣接地所有者からの引き受けの申出、農業委員会の調整による農地活用を挙げる。

かかる費用

審査手数料は一筆14,000円、申請時に収入印紙で納める(法務省ページ、令和5年4月24日更新)。承認後の負担金は10年分の標準的な管理費用から算定し、原則20万円。ただし田・畑のうち市街化区域内・農用地区域内・土地改良事業等の施行区域内にあるものは面積に応じた算定になる(税理士法人チェスターは1,000平方メートルで112万8,000円と試算、2026年7月31日確認)。手数料は却下・不承認・取下げでも返らない。

相続放棄と国庫帰属、どちらを選ぶかの分岐

見る点相続放棄国庫帰属
対象相続財産の全部土地を選んで申請できる
期限相続を知ってから3か月期限の定めなし(取得後に申請)
直接かかる費用収入印紙800円+郵便料審査手数料14,000円/筆+負担金(原則20万円、田畑は面積算定になる場合あり)
通らない要因期限切れ、処分による単純承認建物あり・境界不明・通路利用・地上の有体物など
その後に残る負担現に占有していれば保存義務が残る承認・納付で所有権が国に移り、以後の負担はない

相続する側に回った場合の期限(3か月・10か月・3年)

取得する前提での期限を近い順に並べる(2026年7月31日時点)。

  • 3か月:相続放棄・限定承認の申述期限。自己のために相続の開始があったことを知ったときから(民法第915条第1項)
  • おおむね10か月:農地法第3条の3の届出。相続で農地の権利を取得した者は農業委員会に届け出る。怠るか虚偽の届出をすると10万円以下の過料(農地法第69条)。多くの自治体が権利取得を知った時点からおおむね10か月以内と案内する(上越市・酒田市の農業委員会ページ、2026年7月31日確認)
  • 10か月:相続税の申告期限。課税の判断と農地の納税猶予は税理士の領域
  • 3年:相続登記の申請義務。所有権取得を知った日から3年以内(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(同法第164条第1項)。令和6年4月1日施行で施行日前の相続も対象。遺産分割がまとまらないなら相続人申告登記で足りる(法務省「相続登記の申請義務化について」2026年7月31日確認)

相続放棄をすれば権利を取得しないので、10か月の届出も3年の登記義務も付いてこない。放棄しないと決めた時点で、この3つが同時に走り出す。

判断する前に確定させる5つ

  1. プラスの財産の総額。放棄は全部が対象なので、預貯金や自宅の価値を数えないと比べられない
  2. 借金・連帯保証の有無。ここが大きければ判断は速くなる
  3. その農地を今、誰が使っているか。自分が草刈りや鍵の管理をしているなら940条の占有の話になる
  4. 登記地目と現況、面積、市街化区域か農用地区域か。国庫帰属の負担金も転用の可否もここで変わる
  5. 境界杭があるか、進入路として使われていないか。国庫帰属の却下理由はここに集中する
実家じまいナビ編集部 実家じまいナビ編集部の実体験

出口を全部当たって、どれも成立しなかった

編集部が保有しているのは農地ではなく沖縄の傾斜地。売却・寄付・国庫帰属と順に当たり、どれも成立しないまま保有が続く。固定資産税は年約7万円。出口が無いまま出ていく支出は、額以上に判断を鈍らせる。

相続税は税理士、放棄と占有の判断は弁護士、登記は司法書士。3か月を過ぎた場合も、農地の存在自体を知らなかったなど起算点の判断が変わる余地があるので、可否は弁護士に確かめる。上の5点を書き出してから相談に行く。

放棄の期限が残っているうちに、売れる農地かどうかを潰しておく

売却が成立する農地なら、放棄も国庫帰属も要らない。まず値が付くかを確かめてから、残りの選択肢を比べる。

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実家じまいナビ編集部 |沖縄に売れない土地を持つ当事者が運営

実家じまいナビ編集部です。運営者自身が沖縄に売れない土地を相続し、出口が見つからないまま維持している当事者です。役所と業者を回って分かった順番、実際にかかる費用、先に知っておけば防げたことを記録しています。法令の解釈が必要な部分は断定せず、調べ方と相談先を示す方針です。

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