農地が売れない5つの理由と、それでも手放す方法

農地を売りたいのに話が進まない状態には、はっきりした原因がある。
原因は5つに分かれ、それぞれ打ち手が違う。純農業地域の中田価格は10アールあたり104万4千円で30年連続の下落、下落理由の1位は買い手の減少そのものだった(全国農業会議所・2026年7月30日確認)。まず自分がどれに当たるかを分ける。
この記事の目次
「売れない」には3通りある。どれに当たるかで相談先が変わる
| 返ってきた言葉 | 実際に起きていること | 最初に当たる窓口 |
|---|---|---|
| 農地は扱えない | 制度側の障害。買い手の資格、転用できない区分、権利関係の未整理 | 市町村の農業委員会 |
| 値段が付かない | 制度は通るが需要がない。買う理由が相手の側にない | 複数の不動産会社、農業委員会とJAのあっせん |
| 引き取り手がいない | 売買も貸借も成立しない。無償でも受け手が出ない | 農業委員会(非農地判断)、法務局(相続土地国庫帰属制度) |
理由1|買い手が農家に限られる。ただし「50アール以上」の壁は2023年に消えた
農地を農地のまま売るときは農地法第3条の許可が要り、許可を受けずに結んだ売買契約は効力を生じない。
かつての下限面積要件(取得後の耕作面積が都府県50アール、北海道2ヘクタール以上)は、令和4年法律第56号の施行により2023年(令和5年)4月1日に廃止された。農業委員会が独自に定めていた別段の面積も同時に廃止されている(御前崎市・2026年7月30日確認)。面積が小さいから買えないという説明は当たらない。
廃止されたあとも残っている要件
- 全部効率利用要件。所有・借入を含めた農地のすべてを効率的に耕作すること
- 農作業常時従事要件。申請者または世帯員等が年おおむね150日以上従事すること
- 地域調和要件。周辺の農地利用に悪影響を与えないこと
- 法人の場合は、農地所有適格法人の要件を満たすこと
市街化区域でも3条許可は必要になる。
理由2|宅地にして売る道が、区分によって最初から閉じている
農地のまま売れないなら宅地にして売る、という発想は正しい。ただし転用できるかは持ち主の意思ではなく農地の区分で決まる。農地法第5条の許可には立地基準があり、農地は5つに分けられる。
| 区分 | 転用許可 | どういう農地か |
|---|---|---|
| 農用地区域内農地(青地) | 原則不許可 | 農業振興地域整備計画で農用地区域に指定。先に区域から外す手続きが要る |
| 甲種農地 | 原則不許可 | 市街化調整区域内で、特に良好な営農条件を備えた農地 |
| 第1種農地 | 原則不許可 | おおむね10ヘクタール以上の一団の農地、土地改良事業の区域内など |
| 第2種農地 | 他の土地では目的を達成できない場合に限る | 市街地化が見込まれる区域内の農地 |
| 第3種農地 | 許可される | 市街地の区域内、市街地化の傾向が著しい区域内の農地 |
区分は自分では判定できないので農業委員会で確認する(高知県の公表資料・2026年7月30日確認)。立地基準を通っても、資力・信用、事業計画の妥当性、周辺農地への被害防除措置を見る一般基準が残るため、買い手の用途が固まらないと申請できない。
許可を取らずに埋めたり停めたりしない
罰則は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人には1億円以下の罰金(農地法第64条・第67条/農林水産省・2026年7月30日確認)。手続きは農地転用とは?費用と期間、許可が下りる条件にまとめてある。
理由3|買い手の母数が、25年で半分以下になった
基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年に102万人。平均年齢は67.6歳、50代以下は22.7万人しかいない(農林水産省「農業経営をめぐる情勢について」令和8年1月・2026年7月30日確認)。
- 2000年 240万人
- 2010年 205万人
- 2015年 176万人
- 2020年 136万人
- 2025年 102万人(概数値)
2015年以降は5年ごとに2割以上減っている。規模を広げる経営体はあるが、広げ方は購入ではなく借入で、2025年(令和7年)4月から農地の貸借は原則として農地バンク(農地中間管理機構)経由に一本化された(農地法第3条の貸借は引き続き可。長岡京市・2026年7月30日確認)。借りれば固定資産税も相続も背負わずに耕せる以上、相手に買う理由がない。値段を下げても解決しない。
理由4|値段が30年下がり続け、下落理由の1位が「買い手の減少」
価格の側は、全国農業会議所の令和6年田畑売買価格等に関する調査(2025年3月21日公表)が実勢を追っている。
| 区分(10アールあたり) | 中田 | 中畑 |
|---|---|---|
| 純農業地域(農用地区域内) | 104万4千円(前年比 △1.2%) | 77万1千円(同 △1.0%) |
| 都市的農業地域(市街化調整区域の農用地区域) | 281万1千円(同 △0.8%) | 267万1千円(同 △0.7%) |
純農業地域は平成7年以降30年連続、都市的農業地域は32年連続の下落。最高値の年と比べ純農業地域の中田は47.8%、中畑は44.0%、都市的農業地域は中田74.9%、中畑76.2%下がった。下落理由の最多は買い手の減少や買い控え(純農業地域の中田35.3%、中畑38.1%)、次いで後継者不足(中田18.7%)、農産物価格の低迷(同13.0%)(同調査・2026年7月30日確認)。
地域差は大きい。純農業地域の中田は東海200万円、近畿178万6千円、関東138万8千円に対し、北海道23万8千円、東北49万円、中国66万2千円。
農地のままの値段と、転用を前提にした値段は別物になる
第2種・第3種に当たる可能性がある農地なら、査定を複数社から取って幅を把握しておく。相場を知るためだけの利用でも問題ない。数字が出てこない場合は、需要がないのか制度で止まっているのかの切り分けにも使える。
無料で査定額を調べる理由5|土地の情報が確定していないと、その場で候補から外れる
相続登記が済んでいない
相続登記は2024年(令和6年)4月1日から義務化され、取得を知った日から3年以内の申請が要る。怠ると10万円以下の過料。施行日前に相続を知っている未登記の不動産は2027年(令和9年)3月31日が期限(法務省・2026年7月30日確認)。
境界が決まっていない
登記の地目と現況、水利費
土地改良区の区域内なら、転用の際に地区除外や決済金の手続きが要る場合があり、金額と要否は改良区ごとに違う。
窓口を回った順番だけは同じだった
放置を選ぶと出ていく金額。勧告を受けた遊休農地は固定資産税が約1.8倍
農業委員会は毎年の農地パトロールで遊休農地を判定し、利用意向調査をする。貸付けの意思を示さず耕作も再開しない状態が続くと農地中間管理機構と協議すべき旨の勧告が行われ、1月1日時点で勧告を受けていると翌年度から課税が強化される。
通常の農地は売買価格に0.55(限界収益修正率)を乗じて評価額を出すが、勧告を受けた遊休農地はこれを乗じないため約1.8倍になる。対象は農業振興地域内の農地に限られる(農林水産省「遊休農地の課税の強化」・2026年7月30日確認)。遊休農地の解消、農地バンクの借入れ、裁定による農地中間管理権の取得のいずれかで勧告は撤回される。利用意向調査で貸付けの意思を示していれば、機構側の事情で成立しなくても勧告は行われない。
税金以外に出ていくもの
- 草刈りなどの管理。通えない距離なら委託費がかかる
- 水利費や土地改良区の賦課金。耕作していなくても賦課される区域がある
- 倒木、雑草、害虫、不法投棄の始末。近隣とのやり取りは所有者に来る
農地だけを選んで相続放棄することはできず、放棄後も管理責任が残る場合がある。この整理は農地は相続放棄できる?放棄後も残る管理義務の話で扱っている。
手放すための順番。窓口で確定させてから外に出す
- 農業委員会で区分と見込みを聞く。農用地区域内か、転用許可の見込み、非農地判断の可能性、あっせんの実績
- 名義と境界を埋める。相続登記、公図と登記事項証明書、境界の確認
- 農地のまま売る道を当たる。農業委員会とJAのあっせん、農地バンクへの貸付け
- 転用を前提にした売却を当たる。第2種・第3種なら、用途込みで買い手を探す
- どれも成立しないなら、農地の枠から出す。非農地判断と、相続土地国庫帰属制度
| 段階 | 窓口 | 主にかかるもの |
|---|---|---|
| 区分と見込みの確認 | 市町村の農業委員会 | 相談は無料の自治体が多い |
| 相続登記 | 法務局(司法書士に依頼可) | 登録免許税と依頼する場合の報酬 |
| 境界の確認・測量 | 土地家屋調査士 | 面積と現況で幅が大きい |
| あっせん・貸付け | 農業委員会、JA、農地バンク | 相談は無料のことが多い |
| 転用許可の申請 | 農業委員会経由で都道府県知事等 | 行政書士報酬は事務所差が大きい |
| 国庫帰属の申請 | 法務局(本局) | 審査手数料14,000円/筆と負担金 |
売り方の整理は農地を売る2つの方法|農地のままと転用してからに分けて書いている。
外に出す前に、値段が付くのかを確かめる
窓口で区分と見込みを取ったら、次は市場側の答えを取る。査定を複数社に同時に出すと、農地として見るのか転用見込みで見るのかの差が数字に出る。無料で、依頼したからといって売らなければならないわけではない。
無料で査定額を調べる売買も貸借も成立しないときに残る2つのルート
1. 非農地判断で、農地の枠から出す
登記地目が田や畑でも、現況が農地でなくなっている土地は、農業委員会の非農地判断を経て地目変更登記ができる場合がある。農地でなくなれば農地法の許可は要らず、買い手の資格の制限も外れる。
姫路市の確認要件は、農地に該当しない状態が20年を超えて続くこと、農地法第51条第1項の違反転用の処分対象でないこと、農用地区域内でないこと。20年以上の経過は建物の登記図面や航空写真などで客観的に示す(姫路市・2026年7月30日確認)。
2. 相続土地国庫帰属制度で、国に引き取ってもらう
相続または相続人への遺贈で取得した土地に限り、法務大臣の承認を受けて所有権を国庫に帰属させられる。2023年4月27日開始で、買った土地には使えない。
- 審査手数料は土地1筆あたり14,000円。取り下げても却下されても返還されない
- 負担金は田・畑なら定額で原則20万円。市街化区域または用途地域内なら面積に応じた算定
- 隣接する2筆以上で種目が同じなら、申出により1つの土地とみなして負担金を算定できる
- 建物がある土地、担保権等が設定された土地、土壌汚染がある土地、境界が明らかでない土地は却下。管理に過分な費用がかかる崖地などは不承認(法務省・2026年7月30日確認)
法務省の統計(令和8年6月30日現在の速報値)では、申請5,698件のうち最多の地目が田・畑の2,226件、宅地1,973件、山林868件。帰属が認められた2,885件の内訳は宅地1,073件、農用地925件、森林193件、その他694件。取下げ1,063件、却下83件、不承認93件も出ており、申請すれば通る制度ではない。
売れたときにかかる費用と税金
売却益には所得税と住民税がかかる。分離課税で、所有期間5年超の長期譲渡が所得税15%・住民税5%、5年以下の短期譲渡が所得税30%・住民税9%(農林水産省「農地を売った場合の税金」・2026年7月30日確認。ほかに復興特別所得税)。時価の2分の1に満たない低額譲渡も、時価で売ったとみなして課税される。
農地に固有の特別控除
| 控除額 | 対象になる譲渡 |
|---|---|
| 800万円 | 農用地利用集積等促進計画や農業委員会のあっせん等による農用地区域内農地の譲渡/同区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡 |
| 1,500万円 | 市町村長が通知する買入協議により、農用地区域内の農地を機構に譲渡 |
| 2,000万円 | 地域農業経営基盤強化促進計画の特例により、農用地区域内の農地を機構に譲渡 |
| 5,000万円 | 農地が土地収用法等により買い取られる場合 など |
自分で相手を見つけて直接売ると、これらは使えない。あっせんや機構を通す順番を先に踏むかどうかで手取りが変わる。
仲介手数料
2024年(令和6年)7月1日から、低廉な空家等(売買代金800万円以下の宅地または建物)の媒介は報酬の上限が33万円(税込)に引き上げられた(国土交通省告示第949号/高知県による案内・2026年7月30日確認)。安い農地ほど代金に対する比率は高くなり、100万円で売れて手数料が33万円になり得る。
