農地転用の要件はゆるくなった?近年の改正の中身

農地転用の要件が緩くなったと聞いて、実家の田畑を調べ始めた人は多い。
結論を先に置く。2023年4月に緩んだのは農地を農地のまま取得する側(農地法3条)で、転用そのものを許す4条・5条の許可基準は動いていない。農用地区域からの除外は、むしろ厳しい方向に動いている(2026年7月時点)。
この記事の目次
どこが緩み、どこが緩んでいないのか
2026年7月時点で確認できる範囲では、近年の農地法改正で緩んだのは農地を農地のまま持つ人を増やす方向の規制で、宅地や駐車場に変える転用の許可基準は動いていない。要件緩和の記事の多くは、この2つを分けずに書いている。
| 何の要件か | 近年の動き |
|---|---|
| 農地を農地のまま買う・借りる(農地法3条) | 大きく緩和。2023年4月1日に下限面積要件が廃止 |
| 自分の農地を自分で転用する(4条) | 許可基準の緩和なし |
| 転用目的で売る・貸す(5条) | 許可基準の緩和なし |
| 農用地区域からの除外(農振除外) | 厳格化の方向 |
| 許可の窓口・決裁 | 権限移譲で地元に近づいた |
| 個別の例外(農業用施設・営農型太陽光) | 限定的に緩和 |
実家の畑を宅地にして売りたいなら、近年の改正で有利になった点はほぼない。農地のまま誰かに買ってもらう・借りてもらう出口は、実際に広がっている。
2023年4月に廃止されたのは「下限面積要件」
最も大きいのは、農地を取得するときの下限面積要件(旧農地法第3条第2項第5号)の廃止になる。都府県は50アール(5反)、北海道は2ヘクタール。この面積に届かない取得は原則として農業委員会の許可が出なかった。農地法の改正により、この要件は令和5年(2023年)4月1日に廃止されている。宮城県利府町は、農業者の減少・高齢化が加速するなかで多様な人材の確保・育成を後押しする施策と説明している(同町ページ、2026年7月30日確認)。
廃止後も残っている3つの要件
- 全部効率利用要件:所有・借入している農地すべてを効率的に耕作すること
- 農作業常時従事要件:申請者やその世帯員などが農作業に常時従事すること
- 地域調和要件:周辺の農地利用に支障を与えないこと
面積の壁が消えただけで、許可審査そのものは残る。誰でも農地を買えるようになったわけではない。手放したい側から見た意味は別で、5反未満の畑を欲しい人がいても既に一定面積を耕作していなければ許可が出なかった状態が解け、買い手・借り手の母数が制度上増えた。
転用の許可基準(4条・5条)は緩和されていない
農地法は手続を3つに分ける。3条は農地を農地のまま権利移動する場合、4条は自分の農地を自分で転用する場合、5条は転用目的で売る・貸す場合。2023年に緩和されたのは3条で、4条と5条の許可基準には手が入っていない。愛知県内で農地法務を扱う三澤行政書士事務所も、下限面積の廃止は農業をする目的で取得・賃借するためのルールの緩和であり、開発目的の転用規制は変わっていないと明言している(2026年7月30日確認)。
転用の可否は立地でほぼ決まる
転用許可は立地基準と一般基準の2段で審査される。立地基準は農地を農用地区域内農地・甲種農地・第1種農地・第2種農地・第3種農地に区分し、農用地区域内農地や第1種農地は原則不許可、市街地に近い第3種農地は原則許可という並びになる。立地基準の審査が先に行われるため、立地で外れると事業計画がどれだけ整っていても届かない。一般基準では資力や他法令との調整、周辺農地への被害防除が見られ、農林水産省は投機目的・資産保有目的での農地取得は認めないとしている。
造成しなくても駐車場や資材置場にすれば転用に当たる。市街化区域内の農地は、あらかじめ農業委員会に届け出れば許可が不要になる。区域による違いは 農地転用の許可と届出の違い|市街化区域かで変わる、手続の全体像と費用は 農地転用とは?費用と期間、許可が下りる条件をまとめて解説 に置いている。
緩和どころか、農振除外は厳しい方向に動いた
2023年以降、転用の周辺はむしろ締まっている。理由は食料安全保障で、国は農地の総量を確保する側に舵を切っている。
ひとつは地域計画。市町村が協議の場を設け、地域の農業の将来像と誰がどの農地を耕すかを示す目標地図を定める仕組みが法定化され、策定期限は令和7年(2025年)3月末とされた(令和6年度食料・農業・農村白書、2026年7月30日確認)。地域計画と整合しない転用は原則不許可という規定が加わっている。
もうひとつは令和6年(2024年)6月に成立した農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律で、農用地区域からの除外について都道府県の同意基準に「面積目標の達成に支障を及ぼすおそれがないこと」が加わり、国の関与に係る手続も整備された。
数字でも方向は見える。農林水産省は令和7年6月27日に基本指針を変更し、令和17年に確保すべき農用地区域内農地の面積目標を390万ヘクタールと設定した。令和5年時点は396.7万ヘクタール。荒廃農地は令和6年3月末で25.7万ヘクタール、うち再生利用が可能なものが9.4万ヘクタールとされる。
農用地区域の農地は転用の前に除外が前提になる。順番と要件は 農振除外とは?6要件と費用、農地転用との違いを解説 にまとめた。
それでも実務で緩んだところが3つある
転用の基準は変わっていないが、周辺の運用で緩んだ部分はある。実家の農地に効く可能性があるのは3つ。
1. 許可の窓口が地元に近づいた
2〜4ヘクタールの転用に必要だった国との協議は廃止され、4ヘクタール超は国との協議を付したうえで都道府県(指定市町村にあってはその市町村)に移された。第5次地方分権一括法(平成27年6月公布)により、農林水産大臣が指定する市町村は都道府県と同じ権限で農地転用許可と農振法の開発許可を行える(内閣府ページ、2026年7月30日確認)。基準は同じでも決裁の距離は短い。
2. 2アール未満の農業用施設は転用許可がいらない
耕作を行う人が自分の農地(2アール未満に限る)を、自分の農作物の育成や養畜のための農業用施設に使う場合、転用許可は不要(農地法施行規則第29条第1号)。畜舎、温室、たい肥舎、農機具格納庫が対象に入る。ただしさいたま市のように農業委員会への届出を求める自治体があるので、無届けで着工しない。面積の拡大は議論されたが、周辺農地への影響を確認できないという理由で据え置かれている(内閣府ワーキング資料、令和5年12月)。
3. 営農型太陽光の一時転用は最長10年
支柱を立てて営農を続けながら発電する方式は、支柱部分について一時転用許可を受ける。原則3年以内だが、担い手が下部の農地で営農する場合、荒廃農地を活用する場合、農用地区域外の第2種・第3種農地を使う場合などは10年以内になる。農林水産省は令和6年3月25日にガイドラインを制定し、同年4月1日から新しい運用に切り替えた。緩和と管理強化が同時に入っている。
実家の農地を相続したとき、先に済ませる手続き
相続で農地を取得した場合、農地法3条の許可は要らない。代わりに農業委員会への届出が必要になる(農地法第3条の3)。上越市は、権利取得をしたことを知った時点からおおむね10か月以内に届け出るよう案内し、届出をしなかったり虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料に処せられることがあるとしている(同市ページ、2026年7月30日確認)。この届出は所有権移転登記の代わりにはならず、登記は別に必要になる。
費用や期間を出す前に確認する3点
- 登記地目が田・畑か、現況はどうか。農地法上の扱いは現況で判断される
- 農業振興地域の農用地区域に入っているか。入っていれば除外が前提になり、時間軸が一段長くなる
- 市街化区域か、市街化調整区域か。市街化区域なら転用は届出で足りる
この3点は農地のある市町村の農業委員会と都市計画の担当窓口で確認できる。ここが決まらないと費用も期間も見積もれない。なお遊休農地に対する指導・通知・勧告は農業委員会が一貫して行い、対象は市街化区域を含む全ての遊休農地に広げられている。放置していれば済む状態ではない。
緩和を出口に変えるなら、試す順番がある
使える可能性が高い順に並べると、次のようになる。
- 農地のまま売る・貸す(3条)。下限面積の廃止でここが最も広がった。農業委員会や農地中間管理機構が入口になる
- 転用して自分で使う、または転用目的で売る(4条・5条)。立地基準で結論の大半が決まる。農用地区域なら除外が先
- 相続土地国庫帰属制度。要件と負担金があり、申請すれば必ず通るものではない
- どれも成立しなければ保有継続
順番を飛ばして造成費の見積りから始めると、立地基準で原則不許可の区分だったときに費用だけが残る。
出口を順に潰して残ったもの
編集部は沖縄の傾斜地を相続し、売却・寄付・国庫帰属と順に出口を検証したが、どれも成立せず今も保有している。固定資産税は年約7万円。制度が緩和されたという記事が出るたびに自分の土地に効くかを確認してきたが、緩んでいたのは受け手を増やす側で、出口そのものが増えたわけではなかった。だから緩和の見出しは、まず自分の土地の区分に当たるかどうかで読むようにしている。農地のまま貸すか、転用して使うか。どちらが現実的か
立地基準や農振の区分によって、取れる選択肢は変わる。複数社の活用プランを並べて比べると、その土地に需要があるのかどうかが数字で見える。
無料で活用プランを取り寄せる費用と期間は、区分が決まってから積み上げる
金額を先に決め打ちしない。実務では次の順で積み上がる。
- 行政手続の費用:申請添付書類の取得実費と、依頼する場合の行政書士報酬
- 造成・整地の費用:傾斜、接道、水路の付け替え、擁壁の有無で大きく変わる
- 農振除外が必要な場合の期間:市町村の農業振興地域整備計画の変更に合わせるため、年単位になることがある
多くの市町村は毎月の受付締切を設け、農業委員会の総会を経て都道府県へ意見書付きで送付する流れで、同一の事業目的で30アールを超える転用は都道府県機構の意見聴取が入る(愛知県ページ、2026年7月30日確認)。自分の市町村の締切日と標準処理期間を先に見ておくと、着手時期を逆算できる。
国庫帰属を検討する場合の実費
相続土地国庫帰属制度は、審査手数料が土地1筆あたり1万4000円、負担金は1筆20万円が基本。ただし農用地区域内の農地、市街化区域や用途地域内の農地、土地改良事業等の施行区域内の農地は面積に応じた算定になり、20万円台では収まらない例がある(法務省ページ、2026年7月30日確認)。隣接する2筆以上を1筆とみなして負担金を算定する申出もあるため、複数の筆がある場合は法務局の事前相談で確認する。
編集部は士業ではない。転用の可否は農業委員会と都道府県、登記は司法書士、税金は税理士に確認する範囲として分けている。
転用してからでは戻せない。先に需要を測る
造成費をかけて転用しても、借り手や買い手がいなければ固定資産税だけが上がることがある。活用プランを取り寄せて、需要の有無を先に確かめる。
無料で活用プランを取り寄せる